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広島高等裁判所 昭和28年(ラ)37号 決定

抗告人 磯村誠一

訴訟代理人 山中恒三

相手方 丸信商事株式会社 代表者代表取締役 中村英男

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

事実

抗告代理人は「原決定を取消す、本件を原審に差戻す」との裁判を求めた。その抗告理由の要旨は次の通りである。

(一)  相手方は昭和二十八年十一月六日抗告人に対する金十六万円の債権の抵当権の実行のため、抗告人所有の別紙目録記載の不動産の競売を申立て、原審は同月九日その競売手続開始決定をした。抗告人は昭和二十七年十二月五日相手方と金十六万円の金銭消費貸借契約を締結したが、相手方は同日抗告人に対し金十四万七千二百円を交付したのみで、金一万二千八百円を交付しなかつた。従つて、要物契約である右消費貸借はその全額については成立していないのにかかわらず、原審が金十六万円の債権につき競売手続開始決定したのは違法である。

(二)  抗告人は相手方に対し、昭和二十八年五月七日までに合計金七万五千五十二円を支払つたから、本件抵当債権の残額は金八万四千九百四十八円に過ぎない。もつとも、相手方は月八分の割合の利息の契約があると主張するけれども、右の如き利率は、物価統制令第十条利息制限法第二条に違反するものであつて、右利息契約は公序良俗に反し民法第九十条により無効である。この理は、相手方が貸金業者であつても同様である。

従つて、前示不動産競売手続開始決定は違法であり、これに対する抗告人の異議申立を却下した原決定は失当であつて、取消を免れない。

理由

およそ、抵当権の実行のための競売手続においては、いやしくも抵当債権が残存する以上、裁判所は抵当不動産全部につき競売手続開始決定をなすべきものであり、また、その決定に申立債権を表示するのは被担保債権が如何なる債権であるかを明らかにするためであつて、右決定により債権額が終局的に確定せられるものではない。従つて、競売手続開始決定に表示せられた債権額が現存の債権額と相違することを理由として、右決定に対し不服を申立てることはその利益がないから許されないものと解するのを相当とする。しかるところ、抗告人は本件抵当債権元本金十六万円の内金十四万七千二百円の部分は少くとも成立し、その残債権金八万四千九百四十八円の存することを自認しているのであるから、本件抵当債権の現存額につき判断するまでもなく、抗告人が本件競売開始決定に対し不服を申立て得ないことは前段の説示によつて明らかである。

よつて抗告人の異議申立を却下した原決定は相当であるから本件抗告は理由のないものとしてこれを棄却し、民事訴訟法第八十九条、第九十五条を適用して主文の通り決定する。

(裁判長裁判官 植山日二 裁判官 佐伯欽治 裁判官 松本冬樹)

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